エタノールがペットボトル(PET)できちんと保存できるか気になったので色々調べてみました。
4年前、エタノールを入れる容器がなくてあちこちの実店舗やインターネット店舗を探し回ってやっとの思いでスプレー容器を入手した経緯から別記事を書いたのですが、
→エタノールの容器にPPや100均は?確実なスプレーボトルは?
その当時と今現在では様々な状況が異なること、当時の知識不足のため誤解を与えてしまったため、再度見直しました。そして、現時点で分かっていることを改めて記事にまとめました。
なお、筆者は過去にエタノールの容器を探し回って苦労しただけの主婦であり、化学系の専門家でもプラスチック製造会社の社員でもありません。ただ、今回新型コロナウイルス対策でたくさんの方々が「この容器に入れて大丈夫なの?」と心配していると思い、素人が調べた結果として書いております。
今回参考にさせていただいたプラスチックやエタノール等に関する資料は文中にリンクを貼ってあります。本文やリンク先の資料をご確認のうえ、ご自身がどの容器を使うべきか決めて下さい。
エタノールはペットボトルで保存できるのか?
エタノールをペットボトルで保存できるか、という問題の結論としては以下のようになります。
- PET(ポリエチレンテレフタレート)は「エタノールには使える」というのが定説(プラスチックの専門資料)です。
- ただし、以前は「エタノール不可」という商品が多く、今は「エタノール対応可」の商品が増えています。
- ペットボトル飲料の容器は21世紀になり進化した(けどスプレー容器等に応用しているかは不明)。
「なぜ以前と今と状況が違っているか」については、PETのDLCコーティング技術が開発された影響か、または新型コロナウイルス対策で需要が増えて安い物を沢山供給する目的(PETは他のプラスチックよりもコスト安)なのか、と個人的には推測しておりますが、定かではありません。ただし、新型コロナウイルス対策のため、直近2ヶ月程度でスプレーボトル容器を購入する人はかなり増えています。
「以前」が「いつからいつまでか」を指すかというと、正直言って分かりません。ですが、私が4年前にスプレー容器を探した際には100均(ダイソー、キャンドゥ、セリア)を回っても、PET容器でエタノール対応可となっているものは見つけられませんでしたし(見たものは「エタノール不可」ばかりでした)、Amazonや楽天市場でも見当たりませんでした。(もしかしたら探し方が悪かったのかもしれませんが。)
ですが、最近は新型コロナウイルス対策で多くの人が携帯用スプレーボトルを購入するため、かなり品数も豊富になっているようです。(これがいつからそうなったのかは毎日スプレー容器の市場動向を調査している訳ではないので分かりません。申し訳ございません。)
素人の推測だけでははっきり言って根拠がありませんので、専門家の情報について色々調べたこと(最初にお話しした結論の資料)を、以下の3点について章立てしてご紹介していきます。
(1)プラスチック系の専門資料によると、PETはエタノールを入れられる。
(2)昔は、PET容器は「エタノール不可」の商品が多かった。
(3)PETにDLCコーティングを施すとガスバリア性が増す。
プラスチック専門資料の「PETはエタノールを入れられる」という記載
インターネットで検索してみると、プラスチックの性能についてプラスチック系の会社等が掲載していますが、ここでは私が見やすいと思った以下の2サイトをご紹介します。
【参考資料】
このページには、PETの特性について詳しく書かれています。
(耐薬品性、耐摩耗性、耐溶剤性等が優れている。)
以前は、PET容器はエタノール不可が多かった
残念ながら証拠写真が残っていないのですが、4年前は確かに「PET容器でエタノールOK」と書かれている商品は見当たらなかったんですよね。
そして、その当時容器が見つからずに困って様々なものを検索したところ、Yahoo知恵袋では、以下のような質問が複数見つかったのです。
★「PETと記載のある物に消毒用エタノールを入れたところ溶けたのか?底から全部抜けて漏れてしまいました。PETはアルコールで溶けますか?」
この回答の要約としては以下の通りです。
【回答者1】
・PET樹脂はあまり耐薬品性がない
・酸やアルカリで加水分解を起こし、20%以上の濃度のアルコールでエステル交換反応が起こる(穴が開く)。
・消毒用エタノールは約80%なので穴開く。
この結論としては、「アルコール不可」の注意書きがあったら絶対に入れないこと。
【回答者2】
・PETにはアルコール使用可と不可の商品がある。
・アルコールジェルの容器はアルコール濃度約80%だけどPET容器が使われている。
(アルコールを使用しても問題のないグレード容器だから。)
・「アルコールには使用しないでください」と記載されている商品は耐薬品性を確認していないため保証できないという意味。
引用元:https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1177757006
ということで、その当時私が見たPET容器は全て「アルコール不可」だったため、安いPET容器だと耐薬品性なんてテストしないだろうし(製造メーカーとしても瑕疵責任を負いたくないだろうし)、使える商品なんてほぼ流通していないだろう、と思い込んでいました。
PETにDLCコーティングを施すとガスバリア性が増す
PETとエタノールの話なのにいきなり意味不明の言葉が出てきた、と思うかもしれないので、最初にDLCコーティングについてお話しします。
DLCコーティングとは?
DLCコーティングは厚みが10~40ナノメートルという薄い炭素の膜をPETボトルの内側に形成する方法です。膜を形成すると気体(酸素、二酸化炭素、水蒸気等)を通しにくくなります(ガスバリア性が増す)。
DLCコーティング研究を行ってきたのはキリンビールで有名なキリングループです。
キリングループによるDLCコーティング開発経緯と効果
キリングループではペットボトル飲料が普及したので流れに乗って自社でもペットボトル飲料を開発したけど、「PETだと酸素が透過しやすく液体が劣化しやすい」という欠点があるため、どうすれば劣化しないで美味しいままの味を保てるかという研究を約30年かけた末に技術開発しました。それがDLCコーティングなのです。(ペットボトルの歴史については後述します。)
その効果としては、酸素、二酸化炭素(炭酸ガス)、アロマ(香気成分)をほとんど遮断できるという結果が出ています。
参考資料:KIRIN:30年に及ぶ研究の集大成。DLCコーティングでバリア(遮断)性を高めたPETボトルの開発と実用化
DLCコーティングの図表は以下の論文のPDF2ページ目に記載されています。
見ると分かりますが、コーティング無しのPETよりもかなり低い数値になっているのです。
参考資料:三菱重工技報vol.42No.1(2005-1)ペットボトル用高速・高バリアDLC コーティング装置
プラスチック性能資料と実際の現場での対応って違うの?
でも、「あれっ?そうなの?」と思う人もいるかもしれません。
最初にご紹介した、「プラスチック系の専門資料」では、PETの特性として「耐薬品性、耐摩耗性、耐溶剤性等が優れている」という記載があったんですよね。
でも、実際にペットボトル飲料を作っている現場では、プラスチックの性能について専門家がテストした以上に、口に入れる飲料ゆえに厳密な効果を求める必要があったし、瑕疵がないような商品にしなければならなかったのかと。
ただ、ここで別の会社の気になるPETのデータを見つけました。
以下のサイトでは上記とは異なる記載があったのです。
I-MAKER:ポリエチレンテレフタレート(PET)の特性と用途 ペットボトルからフリースまで
こちらのサイトを見ると、
【PETの長所】
耐薬品性:無延伸フィルムなどで使用する場合は耐薬品性に優れる。
【PETの短所】
耐薬品性:ペットボトルで使用する場合は、耐薬品性、耐有機溶剤性は低く、アルコール濃度は20%が限度。
耐酸性:非常に低い。
透過性:若干の気体透過性がある。長期間保存の場合には内容物の酸化の可能性がある。ペットボトルで使用する場合には、内面をコーティングしたボトルも多い。
となっているのです。
つまり、エタノールで重視すべきは「耐薬品性」ですが、無延伸フィルム(加工してない一枚ロール形状のPET素材)ならOKだけど、ペットボトルのような成型した場合は難ありとなっているんですね。
このI-MAKERは3Dプリンターを扱う会社なのできちんとした理論があるのでしょうけど、PETの形状によって性質が異なるかどうか、という詳細まで記載してあるサイトが他に見当たらなかったので、この記載が間違いないかは確認できていません。
DLCコーティングについてもっと詳しく知りたい方は以下の論文をご覧ください。
(この執筆者(鹿毛 剛氏)は、キリンビール(株)を経て 三菱商事プラスチック(株)で様々な開発に携わった方です。)
PDFの2ページ目(PDF上では494ページと記載)に、
1984 年当時、PET ボトルやアルミ缶蓋のカ ビ臭付着やポリエチレンパッキン使用王冠の 灯油臭、液体紙容器の最内面のポリエチレン による中味フレーバーの収着等が問題になっ ていた。そこでプラスチックボトルについて ガスバリア性とフレーバーバリア性の向上の ための評価や開発を行った。
引用元:https://www.spstj.jp/publication/archive/vol19/Vol19_No6_1.pdf
と書かれています。
また、PDFの9ページ目(PDF上では501ページと記載)に、
(2)DLC コーティング PET ボトルの特長
DLC コーティングにより、PETボトルの酸素ガスバリア性はコーティングする前に比べて 10~30倍程度向上することが認められている。又、炭酸ガスバリア性についても10倍以上の向上がある。更に、香味の収着について炭素数の違いの要因で評価すると、C6、C8、C10 のエステル類やアルデヒド類では3~6倍、アルコール類では20倍以上のフレーバーバリア性が向上したとしている。これによりガラスびんに匹敵する中味の品質保護性が期待される。
引用元:https://www.spstj.jp/publication/archive/vol19/Vol19_No6_1.pdf
と書かれています。
以下、素人が考えた私見です。
ここから私が考えたことは以下の通りです。
1.PETとエタノールの相性としては、確かに企業における性能テストにおける一定の基準は満たしているけど、人の嗅覚や味覚など繊細な基準までは満たしていないのではないか?
(でなければ、30年もかかってDLCコーティング技術の開発なんかしないよね?)
2.PETは形状によって性能が異なる可能性があり、業界で出しているPETの性能一覧表では確認できていない。
(専門家がこの部分を絶対に安全だ、と分かる資料を提示してくれれば良いのですが、大企業が悩みに悩んで30年かかってコーティング技術を開発したことを考えると、エタノールのような液体を入れて長期間保存するには、コーティングしてあるPET容器でないと多少は問題あるのではないか、と感じるのです。)
3.もし、コーティング無しのPET容器でも本当に問題ないのであれば(コスト安のスプレー容器ごときで性能テストしなかったかもしれないし)メーカーは瑕疵責任を負いたくないので、昔は「アルコール対応できる」とは言わなかったのかもしれない。
4.今現在、エタノール対応可能なPETが増えたことに関する疑問
・性能テストを行って問題ないと判明したから?
・プラスチック性能表には安全と書かれているので、それを信頼して対応可としているのか?
・DLCコーティングのしてあるPET容器になったから?
→最終的にはこれが問題ですが、消費者である私達は、製造側のことを確認する手段はないので、判断材料として容器に書かれている注意書きで確認するしかないでしょう。
参考:ペットボトルの歴史
ペットボトルの歴史について、上でご紹介したI-MAKERや論文のページにペットボトルの歴史が書かれていましたので抜粋してご紹介しておきます。
1977年 日本で初めてペットボトルが生産されました(キッコーマンの醤油容器)。
1982年 ペットボトルが初めて飲料用に使用されました。
1983年 コカコーラがペットボトル飲料を発売開始して全国に広まり、その後急速にガラス瓶の飲料が廃れていきました。
2004年 キリンビバレッジのPETボトル飲料に初めてDLCコーティングが使用されました。
(最初にホットの「生茶」や「午後の紅茶」の容器として。その後、炭酸飲料、食用油、調味料等にも使われています。)
2010年 メルシャンがPET容器のワイン(アルコールにも対応できるレベル)を発売開始しました。そこでDLCコーティングが話題になり、その後清酒や梅酒、業務用の大型ビール容器等にも使われるようになりました。
エタノールとペットボトルの使用に関するまとめ
ペットボトルにエタノールを入れて良いのか、という問題については、最終的には「エタノール対応」と書かれている容器を使うのが無難です。
プラスチックの性能検査では確かにPETは問題ないという基準ではあるものの、以前は「エタノール不可」という商品が多くありました。ですが、最近ではかなり「エタノール対応」の商品も増えています。容器内コーティングの有無は不明ですが、製造メーカー側できちんと確認した上で販売している、ということでしょう。
ちなみに、以下のスプレー容器は「アルコール対応」と書かれています。
この商品を含めてスプレー容器はマスク等と同様に、中国の会社が販売、発送しているものが多いです。
今現在はコロナの影響もあり、中国から商品が到着までにかなり時間がかかること多く、当初の到着予定日よりも遅れるケースが多いようです。
ですので、販売している会社が海外か、到着予定日が遅くないか等を調べてから注文するようにしましょう。国内発送かつ、到着予定日が早いものを注文する方が安全です。
◆Amazonで実際に注文した品物が届かず問い合わせた事例について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
→Amazonで中国発送品が届かない場合の対処は?我が家の返金と遅延事例
◆Amazonでスプレーボトルを購入したい場合はこちらからどうぞ。
→Amazonで「スプレーボトル アルコール」検索結果を表示する
さいごに:アルコール対応可でも「使用上の注意」は守ろう!
「PETはエタノール対応可だから大丈夫だよね」ということで何をやっても大丈夫ということではないのでご注意ください。
例えば、
- 飲み終えたキリンレモン(ペットボトル)の中にエタノールを入れて数年間すっかり忘れて放置してたら、膨張して蓋にヒビが壊れちゃった・・・Σ(゚д゚lll)
- アルコール対応可のスプレー容器に入れておいたら、噴射口からポタポタ漏れている・・・これって粗悪品なの!?(# ゚Д゚)
このような事態が起こるかもしれません。
参考資料:YAHOO知恵袋-霧吹きにエタノールと水を入れてスプレーして使ったのち、置いておいたらボタボタと液体が口から垂れてきていました。なんでなんでしょうか?
確かにキリンレモンにはDLCコーティングしてあるだろうし、耐薬品性も高いだろうけど、飲料用容器を目的外で使うのですから、何か事故があってもメーカー側の責任ではありません。
また、エタノール商品には必ず「使用上の注意」があります。そして、使用期限も書いてあります。でも、移し替える容器には注意書きがないので忘れてしまう可能性があるのです。(エタノールIPの場合、使用期限は製造から約2年のようです。我が家で2月に購入したエタノール使用期限は2022年12月となってました。)
そもそも、この注意事項の1つに「他の容器に入れ替えないでください。」と書かれているんですよね。
なので、私達がコロナ対策でエタノールを小分けにして使いたいと思っても、ここから先は自己責任になります。そして、安全な容器であっても、別の注意事項である「直射日光の当たらない涼しい所に密栓して保管する」ということを忘れると、上のような事態になりかねません。
で、これは容器の問題ではなく、使う側の問題になってくるのですよね。
- 使用期限を守らなかった&保管場所が不適切だった
→使用期限を過ぎてもエタノールの品質はほとんど劣化しないようですが、何年も放置していると蓋にヒビが入ったなどの現象が少しみられるようです。これは、エタノールの温度上昇で容器内部の圧力が高くなってしまうことが引き金です。 - プラスチックの劣化問題
→プラスチックは長期間使っていると劣化していくため、外的要因によりヒビや破損の可能性が高くなります。
ですので、もちろん「エタノール対応」のスプレー容器を購入する必要はあるけど、それを使う際にも私達が安全な使い方を心掛けることが重要なのです。
長くなりましたが、エタノールの容器を探す際の参考に使っていただければ幸いです。