宅急便が届いたときに「判子押してください」「印鑑を下さい」などと言われますが、どっちが正しいのでしょうか。
この「判子」と「印鑑」は普段同じように使っていますが、実は2つの言葉には大きな違いがあるのです。
今回は、判子と印鑑以外にも似ている「印章」や「印影」などの言葉についても分かりやすくまとめました。また、昔はハンコウ(版行)という言い方をしたものですが、ハンコ(判子)の誤りなのか等もお話しします。
判子と印鑑の違いは?
普段私達は「印を押す道具」を判子「ハンコ」と呼びますよね。これは、ハンコという3文字発音のせいか幼稚な響きがするのですが、ハンコの正式名称が印鑑という訳ではありません。実は、この2つの意味は次のように異なっているのです。
- 判子(ハンコ)→棒状になっている印を押す道具のこと。
- 印鑑→紙に押して写った形(印影)のうち、役所に実印登録した形(印影)や銀行登録した物(印影)のこと。
つまり、「道具そのもの」が判子であり、「紙に写った文字や絵で特定の物」を印鑑というのです。
ここで冒頭の「判子押してください」「印鑑を下さい」に戻りますが、
「判子押してください」は、判子という道具を押してください、という意味であり、
「印鑑を下さい」は、宅急便の受取票に判子を押した実印を下さい、という意味です。
実印は滅多なことでは使わないし宅急便受け取りなら認印で十分ですよね。恐らく「判子=印鑑」という認識で口にしているのでしょう。そして、世間一般の大多数が違和感を覚えないことから、「判子=印鑑」という誤った認識が広まっていることが分かります。
◆実印について詳しい情報はこちらの記事がおすすめです。
→実印は何に使うの?いつ作るべき?三文判でもいい?銀行印と一緒は?
ここで印鑑がなぜ「写った形で役所に登録した実印」を指すのかについてお話しします。
印鑑の由来について
日本の印鑑登録制度の起源は江戸時代といわれています。その当時登録していたのは主に武士や商人階級だけでしたが、関所や番所(役所)に登録簿があり、そこに届け出したものを印鑑と呼んでおり、必要な時に照合して本人確認をしていました。
明治時代になり政府は署名が主流の欧米を見習って署名を採用しようとしたのですが、事務が大変なことと(その当時は筆跡鑑定が大変だった)、文字を書けない人も多かったため導入できず、記名押印という制度が主流となった経緯があります。
ところで、「印鑑」の単語を分解すると「印」と「鑑」ですよね。「鑑」は「鏡」と同じように「物の形を写すもの、手本」という意味があります。そこから、印鑑登録した際に移した文字等の形が照合すべき「手本」ということで「印鑑」という名がついたのです。
この由来が分かれば、「判子≠印鑑」ということを納得できますよね。
では次に、印鑑と同じ「印」のつく、印章と印影についてお話しします。
印鑑と印章と印影の違いは?
- 印章→印を押す道具のことで、判子と同じ意味(判子よりも改まった言い方)。
- 印影→(紙などに)判子を押して写った形のこと。
- 印鑑→印影の中でも役所や銀行等に「自分の印である証明」として実印や銀行印として届け出しておく特定の印影。
※印章で、文字や絵が彫られている部分のことは通常「印面」と呼びますが、この部分を「印章」と呼ぶケースもありますし、法律用語では「印影」のことを印章と呼びます。ただ、これらは特殊なケースなので、通常は判子と同じ、という意味で考えておけば大丈夫です。
ちなみに、郵便局で郵貯口座を開設する場合は、HPの手続きを見ると「印章と本人確認書類(運転免許証)」が必要となっていますが、銀行のHPの場合は、口座開設する場合は「本人確認書類と印鑑」が必要と書いてある銀行が多いです。
(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、りそな銀行を確認したらこのように記載されていました。)
これはあくまでも想像ですが、銀行では「印章」と書くと分からない人もいるから「印鑑」として絵入りで分かりやすくしているのかもしれません。また、郵便局の場合は、かつて国営だったため、使う人の利便性よりも正式名称の使用を優先されていたのかもしれません。ただ、郵便局に行って口座を開設しようとしたら「印章」が必要です、と言われても一瞬何のことだか分からず戸惑う人も多いですよね。
これはハンコ屋さんで判子(印章)を作るときも同様で、ハンコ屋さんは職業柄「印鑑は判子や印章と異なる」ことは知っているのですが、「印鑑注文します」とお客さんに言われてもいちいち訂正しませんし、ハンコ屋さんのHPを見てみると、本来なら印章や判子という言葉を使うべきところを印鑑として説明している文章が多いです。
世間一般の認識が「印鑑=判子、印章」と思い込んでいることから、判子と同じ意味で「印鑑」と呼ぶことが多くなっているようです。
判子が正解で版行ハンコウは間違い?
数十年前、かつて私が子供の頃は判子のことを「ハンコウ」と言っていた記憶があります。(特に年寄りにその傾向が多かったです。)
このハンコウは「版行」という漢字なのですが、国語辞典によると、判子の語源は「版行」だったとされています。それが、「ハンコウ」に対して「判子」の漢字を当てたことから今では「ハンコ」となっているのです。
ちなみに版行という漢字の意味としては、判子の他に「文字や絵を版木に彫って印刷して発行する」という意味があります。江戸時代流行った浮世絵なども木版画であり、これは彫った版木があれば大量印刷できるのですが、呼び方は「印刷」でなく「版行」となっていました。
さいごに
判子は物であり、印鑑は判子で写した形のことです。ただ、世間一般では判子と印鑑は同一だと思われているため、それに合わせてハンコ屋さんや銀行などでは判子の説明として「印鑑」を使っているのが現状です。
日本語も、昔と今で様々な言葉が変化しているし、もしかしたら将来の国語辞典には「印鑑」が判子という意味で書かれる日が来るかもしれませんね。
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