蕎麦を食べる時には「音を立てる」と言われているけど、食事のマナーでは「音を立てない」のが基本ですよね。
そうすると、他人と一緒に蕎麦を食べる時、音はどうすれば良いのでしょうか。どっちが正しいか分からないから人前で蕎麦を食べられなくなりますよね。
今回は、蕎麦を食べる時の音のマナーを中心に、うどん、ラーメン、スパゲティー等についてもお話しします。
蕎麦で音を立てるのは何故なの?
蕎麦を食べる時の音は、ワザと出すのではなく蕎麦本来の美味しさを味わおうとする食べ方をした結果、自然に出てくる音なのです。
では、蕎麦本来の美味しさは何でしょうか。ここで蕎麦を食べる時の状態について細かく考えてみましょう。
蕎麦には麺と汁の2種類がありますが、麺と汁の両方がセットで1つの食事という考え方です。
蕎麦の長い麺を食べる時の状態は、次のようになります。
汁に浸かっていた麺を箸でつまんで持ち上げる
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麺に汁が絡みついたままの状態なので、麺と一緒に汁と空気も吸い上げる(啜る)ことになる
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口の中に麺と汁が入るので、両方の味を同時にバランス良く感じることができることになる
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空気を吐くときに、蕎麦と汁の香りが鼻を抜けて、より一層美味しく感じる
蕎麦の美味しさは「麺と汁が絡み合う」ことでより一層風味を楽しめることから「麺を啜る」=「音を立てる」という食べ方をするし、麺をクチャクチャ噛み砕くのでなく、つるつるーっ、という食べ方が良しとされているのです。
蕎麦の音のマナーは実際どうなの?
蕎麦を食べる時の音は、それが美味しい食べ方とはいえ、感じ方や食べ方の認知度は人それぞれ異なります。
・音を立てなきゃいけないと思い込んでいる
・なぜ音を立てる必要があるのか知らない
・音を立てるのは、みっともない
・音を立てるのは食事マナー違反だ
今挙げたのは、全部中途半端な理解なのですが、食事マナーで最も大切なのは、自分のマナーの押しつけなのですよね。折角の楽しい食事の席で、食べ方のウンチクを出してつまらない諍いを起こすことこそマナー違反なのですから、誰かが食べ方のことであれこれ言ってきたとしても、サラッと流すのが大人の対応でしょう。
では、蕎麦を食べる時の音は実際にマナーの上では問題があるのでしょうか。
食事マナーの点から考えてみると、正式な和食、洋食のコース料理などにおける麺類の場合には、「音を立てずに食べる」のは基本的なマナーです。
ですから、懐石料理の店でコース料理中で吸い物に蕎麦やうどんが出た場合に「ズルズルーッ」という音を立てたらヒンシュクを買う可能性が高いですね。
でも、マナーを知らない人がそういう場に出た場合でも、恥ずかしい思いをすることにはならないでしょう。
というのも、実は、懐石料理においては「音を立てずに、静かに麺類を食べられるように」と麺が一口で食べられる長さに切られて入っているからです。マナー通りに食べられるよう、作り手側の配慮がされているのです。蕎麦などの麺をズルズルーッと啜るのは麺が長いからであって、短ければ啜ることができませんよね。
では、メイン料理としての麺を食べる場合にはどうでしょうか。
蕎麦粉は昔から存在していたのですが、今のような細長い麺の蕎麦は、江戸時代になるまで存在していませんでした。江戸時代より前は、麺として切るのでなく団子のような形状をしたものを食べていたのです。だから、昔は麺を啜ることはありませんでした。また、うどんは蕎麦よりも前からありましたが、太かったため啜るのが難しくて啜らずに食べていたそうです。
そして、江戸時代になり蕎麦は麺の形になり広まっていったのですが、その当時は屋台で立ち食いするスタイルで、しかも屋台にはテーブルがないため食器を左手で持ち、右手で箸を持って食べていたのだとか。そんな状態だし、食事は短時間でささっと済ませるのが当たり前だったんですよね。だから、蕎麦は「庶民の食べ物」で「ファーストフード」みたいな位置付けだったのです。その延長で、「蕎麦は急いで食べるものだから、音が出るものだ」 「蕎麦は行儀よく食べる必要はない」 という認識が根付いて、正式な食事マナーとは別に大衆文化の中の庶民的な・・・ある意味特殊な食事方法「粋な食べ方」として浸透してきたのです。
だから、蕎麦は厳格な料理ではなく庶民の料理なので、正式な食事マナーとは切り離して考えるべきものでしょう。そして、麺が出された場合は音を立てずに食べるものですが、蕎麦がメインの一品料理の場合には、音を立てても許される、という程度のものです。
ただ、音を立てる際には、騒がしくないこと、カッコ良さが必須ですよね。最初に書きましたが、音はワザと出すものではないからです。風味を楽しむための吸い方なので、これ見よがしに出すものではないのです。もし、上手に音が出せないのなら静かに食べて良いのです。音を立てなければ、と気負う必要はないでしょう。ちなみに、欧米系の方々は言葉の発音のせいなのか不明ですが、生まれつき、音を立てる食べ方ができないそうです。それに、日本人でも音を立てるのが難しいと言っている人もいますし。無理に練習する必要はないでしょう。
うどんやラーメンで音立てるのは問題ないの?
うどんや素麺、ラーメンも、基本的に音を立てて食べても大丈夫な食べ物です。基本的に、日本における麺類は大丈夫という認識でOKです。ちなみに、うどんの方が蕎麦よりも太いせいか、音が鈍い感じになる気がします。また、「丸呑み」まではいかないのですが、モグモグと噛み過ぎずに食べるのが基本です。
NGなのは、スパゲティやスープなどの西洋文化における麺類と、本場中国で食べるラーメンです。
ラーメンについては、「あれっ!?どうして?」と思う人もいるでしょう。
実は、日本のラーメンと中国のラーメンは食べ方が異なるのです。
日本では、日本古来の蕎麦やうどんと同様に「麺と汁が一体化した料理」であり、食べ方も汁と麺を同時に啜って食べるものです。
一方、本場中国では、麺と汁は別物なのです。だから食べ方も全く違っていて、レンゲで汁をすくい、汁は汁として飲み、麺は麺として、一度レンゲに麺を入れて音を出さずにモグモグして食べるのです。
さいごに
蕎麦で音を立てる根拠は、食事マナーで「音を立てなきゃいけない」という意味でなく、麺を美味しく感じるための必然的な行為、つまり麺文化的な理由からきているものです。
元々、日本料理や西洋料理の正式な食事マナーでは、音を立てるのはNGとされています。ですが、蕎麦はそういう性質の料理ではなく、どちらかというと大衆的な、食事マナーを持ち込まない例外的な料理として浸透してきた料理であり、昔から「音を立てるのが粋な食べ方」という扱いをされています。
とはいえ、人によって感じ方は様々あり、正式な食事マナーと同等に考えなければいけない、と思っている人もいて、そういう人は蕎麦の音についても嫌がるものです。
いちいち人の食べ方にケチをつけるのは如何なものかと思いますが、それに対して目くじらを立てるのも上品とは言えません。
ですから、もし誰かに指摘されたら受け流すのが上品な対応だと思いますよ。また、自分が音を立てて食べるのが難しい場合は無理に音を立てて食べなくちゃ、と気負う必要はありません。不必要に騒がしい音を立てると逆に品が無いと思われることもあります。
いずれにせよ、蕎麦を食べる時に音を立てるかどうかは、カッコ良く食べられるなら音を立てても良いと思いますが、それが難しいのであれば無理に音を立てる必要はないでしょう。「音を立てるのが主目的」でなく、あくまでも「蕎麦の風味を十分に楽しみたい」という理由で「啜る」結果、音を立てることになった、という結果であることが大切なのです。